大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(う)901号 判決

そこで、記録を調べ、更に当審における事実取調の結果をも併せて検討すると、本件は、原判示の日時に、信号機により交通整理が行われている同判示交差点において、北方から時速約四〇キロメートルないし五〇キロメートルで右交差点に進入した被告人運転の普通乗用自動車と東方から時速約一〇キロメートルないし一五キロメートルで右交差点に進入した前記羽村文江運転の普通乗用自動車とが出会頭に衝突し、両車両とも損傷し、かつ、右羽村が全治約二週間の打撲傷を負い、その事故の原因として被告人の信号無視による過失が問われている事案であるところ、被告人は、本件の捜査、公判を通じ一貫して、被告人の車両が右交差点に進入した際、その対面信号は青色を表示していた旨弁解し、一方、右羽村及び同女の運転する車両に同乗していた前記中島らは、事故直後に現場に臨場した警察官に対して、同人らの車両の対面信号が赤色を表示していたので交差点の手前で一時停止したところすぐ青色となつたので交差点に進入したら被告人車両に衝突されたものである旨述べ、その後の取調べに対して、右信号が赤色を表示していたので速度を落としながら交差点に接近したところ、交差点の直前で信号が青色に変つたので、そのまま時速約一〇キロメートルないし一五キロメートルで右交差点内に進入した旨供述し、交差点に進入する直前の供述者らの車両の動静について一部供述の変遷は認められるものの、これまた、同人らの車両が交差点に進入したときの対面信号機の信号の表示が青色であつたとする点では供述が一貫していて、双方が事故発生直前の現場交差点の信号機の信号の表示について供述するところは明らかに対立しており、従つて、そのいずれかが真実を述べ、他方は虚偽の供述をしていることになるのであるが、その点の供述自体から直ちにその真偽を決することは困難であるので、これを本件衝突事故が発生した直後の双方の言動やその後の行動などと対比して検討すると、まず被告人のそれについてみるに、被告人は、衝突したあと、相手方と一言も言葉を交さず、運転していた自動車を僅かに後退させるやいきなり前進して現場を離脱して走り去り、破損した自車を勝手に早々と修理業者に持ち込みその修理代金三五万円余りを負担して修理をすませ、更に知り合いの真下英子に架電し、同女が本件事故の際被告人の自動車に同乗していて本件交差点の信号が青色であつたのを見ている旨警察官に嘘の供述をして貰いたいと依頼するなどしていることが認められ、また、警察官に対し自ら積極的に事故の届出をすることもなく、更に、相手方に対し事故の損害賠償を求めた様子もない。もつとも、これらの点に関し、被告人は、事故をおこしたあと一旦現場を離れたものの二〇〇メートル程進行してから徒歩で引き返し、事故現場に相手方の車も人も存在しないのを確認して立ち去つたものである旨弁解しているが、関係証拠によれば、被害自動車はそのときはまだ交差点内に放置され被害者らもその近辺に居たことが明白であるから、被告人の右弁解内容が客観的事実に反していることは明らかであり、また、被告人は、事故当時真下英子こそ同乗させていなかつたが、これとは別の行きずりの女性二名を同乗させていて、同女らは本件交差点の信号が青色を表示していたのを見ているというのであるが、左様に重要な目撃証人となる人物について被告人がその氏名、住所も尋ねないで漫然下車させたなどというのは、到底首肯しかねるところといわなければならない。これに対し、前記羽村及び中島は、衝突直後、右羽村において被告人車両のナンバーを確認してメモし、中島において直ちに下車したうえ、現場から走り去ろうとする被告人車のあとを一三〇メートルくらい走つて追いかけたが、結局見失つて衝突現場に引き返し、直ちに現場近くのモーテル「ロイヤル」の電話を利用してあて逃げの被害にあつた旨を警察に一一〇番通報し、間もなく臨場した警察官に対しても、こもごも、同人らの車両が青色信号で交差点に入つたところ、赤色信号を無視して交差道路から進入してきた被告人運転車両に衝突され、自車を損壊され、加害車両はそのまま逃走したとの被害事実を申告し、また、その後右羽村から被告人に対し事故の損害賠償を求める意思表示をしていることが認められるのであつて、以上に明らかな事実に徴すれば、右羽村及び中島の事故後の行動は、同人らが青色信号に従つて交差点に進入して被告人車に衝突され、かつあて逃げ被害に遭つたもののそれとして誠に自然かつ合理的であると認められるのに対し、被告人の行動は、自己が青色信号に従つて交差点に進入したのに信号無視の相手方車両に衝突されて事故に遭つた者の行動としては余りにも不自然不合理であつて、むしろ、右衝突について自己に責任があることを自覚している者の言動としてみるとき誠に自然なものとして了解することができるのであつて、被告人がときに客観的事実と明らかに食い違う弁解をし、また、前記のように第三者に偽りの供述をするよう依頼する挙に及んでいるのも、罪を免れようとする気持に出たものと解するのが自然であるといわなければならない。従つて、両者の事故後の如上の言動経過に照らせば、前記信号機の信号の表示に関する双方の供述のうち、前記羽村及び中島らのその対面信号が青色を表示していた旨の供述こそ真実を述べているものと認めるに十分であり、これに反する被告人の供述は俄かに措信できないといわざるをえない。してみれば、原判決が、右羽村及び中島の供述を採用して、同人らの対面信号が青色でありしたがつて被告人の対面信号は当然赤色であつたと認定し、被告人にすくなくとも信号機の信号の表示を十分確認しないでその運転する自動車を本件交差点に進入させた過失があると判断したのは正当というべきであり、事実誤認をいう論旨は理由がない。

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